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2010年02月10日

【藤子・F・不二雄[異色短編集]3】の感想2



【藤子・F・不二雄[異色短編集]3/小学館文庫】のレビュー。というか単なる感想。二回目。
『どことなくなんとなく』『カンビュセスの籤』。


○『どことなくなんとなく』

繰り返される日常。変わりない毎日。
しかし、主人公の天地は漠然とした違和感を抱いていた。
はじめて『白い夜』の夢を見た日から、この世界に実在感を感じなくなってしまっていたのだ。
ハッキリとした違いが分かるわけではない。しかし、どことなく、なんとなく……。

こういった感覚を体験することはありうる事です。
聞きかじった知識によると。こういうのは離人症の症状で似たものがあります。
離人症と言っても、外界に対するもの。
世界に実感が無く、まるで映画でも見ているかのような現実感喪失。
これはかなり辛い。そりゃ主人公も苦悩しますよ。

※反転
「絶対無の空間にだよ、自分だけがポツンと在って……。過去もなく未来もなく……」
それは恐い。

この世に実在するのは自分の意識だけなのではないかという強迫的な観念。
多感な思春期あたりの年代だとこういったことを考えてる子もいるだろう。
そんな特殊なものじゃない。
けど、そんな恐怖を実現化してしまうのがこの漫画の恐ろしいところです。

もしかしてこれ…。
扉絵の次のページとラストあたりの解説を見るに、
もしかして『白い夜』というのは核の光……?



○『カンビュセスの籤』

紀元前五百年代の事。ペルシアの王カンビュセスの命によるエチオピア遠征軍。サルクはその中の兵士のひとりだった。
行軍中であるはずのサルクは1人荒野を歩いていた。
草一本生えていない荒廃した地。吹きすさぶ風。
サルクは飢えと疲労の極致だったが、迷い歩いた末に、人の手によって作られたらしき建物と、その中に居た1人の少女と出会う。

『カンビュセスの籤』。これもまた印象深い作品でした。
世の中には『馬鹿な大将は敵より怖い』という言葉があるそうで。
戦争の指揮をとる者が戦争知らずだと兵は大変ですね。

※反転
籤で人を食料に…恐ろしい話です。
狂気じみて見える。しかしそれは平和な時代に生きているからそう思うので、人間死に瀕すれば共食いくらいはするのかもしれない。むしろこれは自然な事なのかもしれん。

「地獄をのがれて……別な地獄へとびこんじゃったわけね」
冷静な少女エステル。
読者が共感出来る"常識的な感覚"を持つサルクの当然の反応と言える感情的な描かれ方と、エステルの冷静で感情を抑えた描かれ方がまた秀逸。
「勇気をだして。ね」
自分が死ぬ側だというのにこのセリフは凄い。エステルはとっくの昔に覚悟を決めていたんです。この子はこれまで一体どれくらいの地獄を見てきたのだろう。
「生命を永久に存続させようという盲目的な衝動…」
遺伝子に刻まれた本能ですね。逆に言えば、この本能があるから生命は存続出来ているんです。
最も優先される本能。たとえ何を犠牲にしても。


【藤子・F・不二雄[異色短編集]3】の感想3へ続く。




2010年02月09日

【藤子・F・不二雄[異色短編集]3】の感想1



【藤子・F・不二雄[異色短編集]3/小学館文庫】のレビュー。というか単なる感想。
『箱舟はいっぱい』『権敷無妾付き』『イヤなイヤなイヤな奴』。


○『箱舟はいっぱい』

今から三年前の事。『もうじき巨大な彗星が地球に落ちてくる』という世界を巻き込んだ大騒動が起こった。
しかしそれはすぐに世界天文学会議により公式に否定され、騒動はあっさりと終結したのだった。

そして今。主人公の大山は有頂天になっていた。
隣に住む細川から五百万という破格の安値で新築の家を譲り受けるという願ってもない話を持ち込まれたのだ。
これで夢にまでみたマイホームが手に入る…と喜びおさまらない大山の元に、『ノア機構の連絡員』を名のる男が訪ねてきた。
その男は大山に、計画の進行状況の報告に来たと言いながら一枚の宇宙ロケットの写真を見せ、五百万を受け取ろうとする。
なんのことだかさっぱり分からない大山だったが、どうやらその男は大山を細川だと勘違いしているようだ。
人違いしていた事に気づいたノア機構の男は慌てて逃げるように帰っていったのだった。

ロケット、五百万…。釈然としないまま日々を過ごす大山。
ある日のこと。家族が見ていた歌番組の司会者が、突然スタジオ内が騒然となる爆弾発言をする…。

……この話、面白い。
あー、テレビのコメンテーターの言う通りですよね。
ちょっとでも考えればロケットで脱出なんてありえない、詐欺以前のばかばかしい話だ。
しかしこんな話でもひっかかってしまうのが集団心理。これもスタンピード現象か。
周囲の騒ぎに煽られて、冷静な思考を失ってしまってる。恐いねぇ、集団パニック。

※反転
『箱舟はいっぱい』というタイトルがすでにゾッとする。
タイタニックのような沈みかけた豪華客船で助けを求める人が大勢いるのに救命ボートの定員はわずか。そんな感じですね。
日本国内で生き残る可能性があるのは四万人だけか。
ほんと、ほんのひとにぎりの人だけだな。大半はそのまま死ぬ。
最後のコマ、安心しきる家族と死の予感を匂わせる終わり方。寒気がします。


○『権敷無妾付き』

朴念寺は平凡な中年カタブツ部長。
ある日、天知小百合という女性からとある手紙を受け取った。
しかし当の朴念寺はさっぱりその女性に心当たりがない。忘れようとするも、どうしても心から離れない。
葛藤しながらも、結局手紙に記されている待ち合わせ場所まで赴くと、そこにはある男が居た。
男は、朴念寺に『セカンドワイフ』をすすめようというのだった。

…優柔不断な男だなぁ。行くなら覚悟をもって行く、やめるならやめる。
武士の気持ちを忘れたのか、日本の男は!


○『イヤなイヤなイヤな奴』

航宙士六名を乗せた宇宙船、レビアタン号。
アルタイルより地球へ向かい、一年半にも渡る長い任務ももうじき終わろうとしていた。
しかしここに来てどうも乗務員たちがギスギスしはじめた。

アルタイル犬のかわいくなさに驚嘆しました。
というか犬というより小型の妖怪に見えるんだが。

※反転
船長権限で射殺許可って、にくまれ屋をやるのも命がけですね。
共通の敵を作る事によって結束する…。人間ってこうだよなぁ。
この人間心理はリアルでもイヤなくらい見させられる。
いじめの構図を見ているような気もします。


【藤子・F・不二雄[異色短編集]3】の感想2へ続く。





【藤子・F・不二雄[異色短編集]2】の感想4



【藤子・F・不二雄[異色短編集]2/小学館文庫】のレビュー。というか単なる感想。四回目。
『気楽に殺ろうよ』『ウルトラ・スーパー・デラックスマン』。


○『気楽に殺ろうよ』

普段の日常、いつもとなんら変わらない朝。
主人公の男性が目覚めた後新聞を取りに行く途中、その身に激痛をともなう発作が起こった。
発作は五分程度でおさまったのだが、それからというもの、何かがおかしい。ハッキリとは分からないが、なにやら違和感を感じる。
妻に食事のさいそくをすると、妻は異常なまでに恥ずかしがり、カーテンを閉め食事をする。
幼児向けの絵本に男女のセックスシーンが当然のように描かれている。
殺人の権利が公然と売買されている。
これらの事に驚きとまどう主人公に対し、妻は主人公の方が異常だとして主人公にカウンセリングに行くように進める。

『気楽に殺ろうよ』。タイトルやばい。(笑)
価値観の違いによる奇異さ、そして普段理由も分からず妄信している既存の価値観をゆさぶる漫画。

※反転
このカウンセラーいいキャラしておる。
乱食パーティコレクションなんてド変態すぎるだろう。(笑)

「ではうかがおう! なぜ、生命は尊重しなくちゃならんのです?」
なんとも難しい問いですね。
『命は地球より重い』なんて言われたりして、命の尊さは当然のように重く認識されているが、その理由を言えと言われて、即座にちゃんとした論理的回答が出来る人はあまりいないんじゃないだろうか。
普段からそういう事をよく考えてる真面目な人を除くとさ。

最後のコマの主人公には「気付け、気付け!」って呼びかけたくなりますね。


○『ウルトラ・スーパー・デラックスマン』

句楽兼人は表の姿はただの会社員。だが実は彼はウルトラ・スーパー・デラックスマンなのだ!

ある日突然、超人的な力を手に入れた句楽。
それ以来、句楽はウルトラ・スーパー・デラックスマンとして世のため正義のため悪と戦っているのだ。
小さな犯罪も見逃さず、小悪党から財界の大物まで、悪はかたっぱしから叩き潰す。
句楽のその活躍ぶりに人々は感謝し、会社内でも特別待遇。みな敬意を払って彼に接しているのだ。

今日も句楽は人の世のダニである悪に鉄拳制裁を喰らわせる……はずだが、
最近テレビ・新聞などのメディアから犯罪報道が消えてしまった。
この世から悪が消えたというのか? そんなはずはない、これは報道管制だ。
何故隠す? 正義のヒーローに逆らうつもりなのか…?

つーか句楽が小池さんに見える。ラーメン食べてるしさ。
『ウルトラ・スーパー・デラックスマン』というネーミングセンス。たまりません。
「もうかんべんならん!」とキレた時にわざわざ着替えるところが律儀というかなんというか。

※反転
正義というのは恐ろしいものだと常々思っている私だが、これを見てもやはりそうだ。
法ってのは大切だと思いますよ、うん。


【藤子・F・不二雄[異色短編集]3】の感想1へ続く。